******ヴュルテンベルク王国の首都******
シュトゥットガルトといえば、一にも二にも
車の街というイメージでしょう。
実際、駅に降りて見上げると、
メルセデス・ベンツの巨大なエンブレムが目につきます。
が、歴史好きとして、この街を見ると、ドイツに5つあった王国の一つヴュルテンベルク王国の首都
であったことを忘れるわけにはいきません。
人口約60万もの大都市は、何も車産業だけが生み出したわけではなく、歴史的にもこのシュヴァーベン地方の中心地であったわけです。
その栄華を十分に想像させてくれるのが、宮殿広場です。
メインストリートのケーニヒシュトラーセから広場を挟んで堂々と建っているのが、現在は州政府庁舎の新宮殿。
そして、その右側には、旧宮殿と、宮殿広場の名に相応しく、華やかな広場になっています。
新宮殿と向かい合って建つケーニヒスバオは、古い建物の外観でありながら、中は非常にモダンなつくりになっていて、
新旧混在するシュトゥットガルトらしく、私としては面白い。
ところで、シュトゥットガルトは自動車の父ダイムラーを生んだ街ですが、
彼が生まれたのは偶然ではありません。
シュトゥットガルトを首都とするヴュルテンベルク王国という国の凄みがここにあります。
ときは19世紀。
まがりなりにも旧体制を維持していたウィーン体制が、1848年のフランス2月革命に端を発した革命の連鎖の前に崩壊。
ヨーロッパに革命の嵐が吹き荒れていた時期のことです。
この王国では失業の増加こそが革命の遠因だと分析し、国民を教育して手に職をつけさせることが
大事と考えたらしいのです。
自国を富ませるために、富国強兵政策というのはよく耳にしますが、革命対策のために国民を富ませる、そのためには教育をする、
というのは、この時代の発想としては実に独創的で素晴らしいと思います。
この教育制度がダイムラーを生んだといっても過言ではないでしょう。
さて、シュトゥットガルト到着は夜も更けてから。
さっそく、夕食をとることにしました。
頼んだのはMaultaschenというシュヴァーベン料理。
ドイツの中ではイタリアに近いせいか、どこかイタリア料理に近い感じです。
が、似た食べ物は?と聞かれると困ってしまいます。
私はこれに似た食べ物を知りません。これを食べてもらうしかない。
ところで、隣町エスリンゲンは、ドイツのスパークリングワインであるゼクトの一大産地。
これは飲まないわけにはいかないでしょう。
いや、正直に言うと、ゼクトこそ、シュトゥットガルトにやってきた目的の一つなのです。
味は満足。
ゼクトも白ワイン系ですが、やはりドイツの白はいけますね。
私くらいの舌なら、十分に満足です。
******ドイツきっての車の街******
アウトバーンが国中を蜘蛛の巣のように張り巡らされ、ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、ポルシェなど名だたる車メーカーが
顔を並べるドイツは間違いなく
車王国といって、いいでしょう。
当然、車関係の博物館も数多いのですが、その中でも特に評判がいいのが、
メルセデス・ベンツ博物館です。
別に車好きでも何でもないですが、ドイツに来たからには見ておく必要があるという、私の例の勝手な思いこみがあり、
シュトゥットガルトに来た翌日、さっそく訪れました。
非常にモダンな外観で、既に外観がベンツの気位の高さを物語っているようにも感じます。
さて、先に私の不明を告白しておかなければなりません。
私は長らく、ベンツを社名だとばかり思っていたのです。
実際はブランド名で、社名はダイムラー。
更に恥を告白しておけば、ダイムラーとベンツが同じ会社のことだとは露ほども思っていなかったのです。
少しだけ私を弁護しておけば、大昔はダイムラーとベンツという別会社であったので、少しだけ真実を
言い当てていると言ってもいいかもしれません。
もっとも、両社の合併は1926年なので、私の祖父母すら生まれていない時代の話ですが。。。
さて、ダイムラー。
既に少し述べていますが、元は人名です。
彼こそ世界初の自動車を作ったと言われています。
自動車を作る一年前には世界初のオートバイも世に送り出しており、ともに博物館に展示されています。
ゴムタイヤもなく、機械的に衝撃を吸収する機構をもっていないようにみえたので、整備されていない昔の道路を思えば、
乗り心地はおそらく最悪でしょう。
が、ともあれ機械で動く二輪車を世に送り出したエンジニア魂は、同じエンジニアとして、大いに尊敬すべきところです。
彼はシュトゥットガルトが誇る偉人といっていいでしょう。
さて、もし三輪車を自動車の分類に入れていいなら、実は世界初の自動車の栄誉は、同じシュヴァーベン地方出身の
もう一人の偉人ベンツに譲ることになります。
驚くことにこの二人が自動車を発明したのは全く同じ年、わずかにベンツが早かったというだけの違い。
お互いに全く存在をしらなかったにも関わらず、同じ年に偉業を達成したということに驚かざるを得ません。
その年とは1886年で、今から130年ほども前のことです。
展示してあるこの自動車は、当然ながら非常にシンプルで、素人がみてもある程度構造が分かるので、面白いです。
ところで、ベンツの自動車については、温かいエピソードがあります。
彼の奥さんが、彼の偉業を世間に認めてもらいたく、彼に内緒で自らこの自動車を運転し、約100kmもの
長距離運転をやってのけたのです。
女性でも長距離移動が可能なことを証明してみせたというわけです。
実際には、途中故障したのを自分で直したり、なかなか大変な道中だったようですが、それを成し遂げたのは、夫婦愛ゆえでしょうか。
お互いに支え合う夫婦という姿は実に素晴らしい。私も見習わなければなりませんね。
さて、当然ながらこの博物館には往年の名車がずらりと勢ぞろいしているわけですが、私に面白かったのはスポーツカーの
コーナーです。
私の知るスポーツカーとはだいぶ姿が違いますが、当時はまだせいぜい時速100km程度。
不安定そうにみえる車体もあれで十分だったのでしょう。
ところで、展示物の充実ぶりはさすがというべきだったですが、私はもっと触ったりできるような博物館を期待していただけに、
その点が少し残念でした。
それでも、世間での安全への意識の高まりに伴って、エアバックが装着されるようになったことが説明されていたり、
世間の出来事を絡めた展示の仕方は興味深かったです。