******水の芸術******
世界遺産は数あれど、ここカッセルにある世界遺産ほど変わった世界遺産はそうはないでしょう。
水の芸術です。
街を一望できるヴィルヘルムスヘーエ城公園にある水のショー。
電気の力でなんでもできてしまう現代なら、水のショーと聞いても、何の変哲もなく聞こえますが、これが完成したのは今から約190年前。
着工はなんと320年前です。
当然、電力などなく、高低差を利用した自然の力だけで、数々の水のショーを作り出したのです。
驚くほかありません。
しかも、いつでも見られるわけではなく、だいたい5月から9月いっぱいまでの日曜日と水曜日の週二日しかお目にかかれない貴重さ。
世界遺産になったのも当然です。
これを見ない手はないでしょう。
車を公園の頂上付近に置いて、ショーが始まるのを待ちました。
しばらくすると、ヴォーという音が鳴り響いて、水が流れ始めました。
この音も水の圧力で鳴っているようです。素晴らしい。
流れ始めた水に沿って、一斉に人々が動いていきます。
なにやら、目に見えない力に人々が動かされているようです。
ところで、カッセルはヘッセン方伯という中世ドイツで大きな影響力をもった領主の首都でした。
もともとヘッセンは帝国最有力諸侯といっていいテューリンゲン方伯領の一部だったのですが、相続争いがあって二つに分かれ、新たにヘッセン方伯ができました。
ちなみに二つに分かれた際に、相続争いに勝ってテューリンゲン地方を継いだのが、後のザクセン王家です。
このヘッセン方伯家は、宗教改革の際はルターを支持して、シュマルカルデン同盟を結成。
が、ザクセン公モーリッツの裏切りにあって、皇帝軍に敗北します。
つくづく、ザクセンのヴェッティン家とは相性が悪いですね。
その後、ヘッセンは更に分割相続され、力を失っていくことになります。
分割相続されたうち、カッセルに本拠地をおいた家が、後のヘッセン選帝候家です。
この水の芸術を完成させたのが、このヘッセン選帝候家です。
ちなみに分割相続された中で、もう一つの有力諸侯が、ダルムシュタットに本拠地をおいた、後のヘッセン大公家です。
さて、水の芸術は、徐々に下に降りていきます。
何もなかったところに滝が現れたり、渓流が現れたりするのはなかなか楽しいものです。
次のポイントまで降りてきたときには、まだ始まっておらず、皆で始まりを待って、いざ始まったときの何ともいえない感動。なかなかニクい演出です。
但し、かなり急がないと、着いたときには既に始まってしまっています。
一カ所であまり長く楽しむ時間がないのは残念なところです。
着工した17世紀には、構想はあっても技術的に実現できなかったとか。
それを130年かけて、子孫が実現してみせたわけです。
構想したヘッセン・カッセル方伯カールは、あの世で涙を流して喜んでいるに違いありません。
さらには、世界遺産にまで認定されたわけですから、構想した甲斐があったというものでしょう。
さて、クライマックスは最下段にある大噴水です。
これも、水圧だけで、これだけ高く吹き上げているとか。
この水圧を維持するのが難しく、130年かけて、ようやく実現したようです。
これが電動だったら、大した感動もありませんが、水圧だけで実現したと聞くと、感心して眺めてしまいます。
さて、ここまで水が流れるに任せて下ってきたわけで、当然車を停めたところまでは、また登る必要があります。
ちょっとしたハイキングです。
その途上、ちょっと雰囲気の良い城があります。
レーヴェンブルク城です。
中世の城という雰囲気ですが、建てられたのは、水の芸術と同じ頃。
ドイツ各地で流行った中世懐古主義に沿って建てられました。
見かけだけ、中世風にみせているわけです。
歴史的価値はなくても、その外観には魅せられます。
最後にこの中世風の城を十分に眺めて、カッセルを後にしました。
時間さえあれば、グリム兄弟ゆかりの場所を訪問したかったですが、それはまたいつの日かにとっておきましょう。